折りしも、首都圏や関西圏、名古屋や福岡、札幌などの大都市圏では、6/20までの緊急事態宣言の延長が宣言されましたね。また飲みに行けない日々が続くのかと思うと、友人や仕事仲間とのお酒の席での会話が大好きな自分は、もうがっかりというか憂うつというか、そんな気分です。
一日も早く、気兼ねなくお酒を飲みに行ける日が来るといいな、と思っているこの頃です。
さて、去年の春以降は、コロナ禍のもと、不要不急の外出制限、飲食店の時短営業、テレワークの普及など、コロナ前とは私たちの行動形態も大きく変わりましたよね。
一人一人の行動変容を統計的に処理して、人流がどう変化したのか。これを分析して分かりやすくするのも地理の仕事の一つだと思っています。
最近ニュースなどで、「今週末の渋谷の人出は、前の週の20%増」とかいう報道をよく耳にします。ここで活用されているのが、スマートフォンなどの携帯端末からの位置情報を処理した「人流データ」です。
人流データの特長などを簡単に紹介しつつ、その一つである「あさひる統計」を使って、コロナ前とコロナ後で時系列的に比較できる地図を作成してみます。各地の人流にどんな変化があったのかが見えてくると思います。
もくじ
人流データって何ですか?
コロナ禍になって、繁華街の人出がコロナ前から10%減った、とか前の緊急事態宣言の時に比べると30%増えてる、とかいう報道が増えていますよね。
そもそも、昼間の繁華街にどのくらいの人口がいるかなんて、どうやったら分かるのでしょうか。人口を知るための最も一般的な情報源といえば、みなさんも回答したことがある国勢調査です。しかし、国勢調査は、あくまで住まう場所での人口を示すもので、昼間に働きに出たり、買物に出かけたり、通勤中や飲みに行っている時間帯の場所における人口ではありません。
何とか昼間の人口を知ることはできないか。
古典的には勤務先や通学先に関する事業所統計調査の情報と国勢調査を掛け合わせた「昼間人口」というデータを利用してきました。ただ、勤務先から営業先に訪問したり、休日に買物で街に出たり、飲み歩いていたりといった流動性が高い人口は把握できませんでした。どっちかといえば、エリアマーケティングの分野では流動性が高い人口がどのくらいいるのかを知りたいのに、です。
技術の進歩は、この課題をうまく解決してくれました。
携帯電話やスマートフォンの普及によって、これらの端末の位置をほぼリアルタイムで分かるようになりました。個々の端末の位置情報を第三者に知らせるのは、プライバシー的に問題がありますよね。なので、エリアマーケティング的にはこれらの情報を一定の範囲内で統計処理を行い、個々の位置情報は無効化した人流データを作成しています。
ここ数年で、このように処理された情報を、私たちは人流データとして活用できるようになってきたのです。
「あさひる統計」も、携帯端末から得られた位置情報を処理して作成した人流データです。
平日と休日に分けた時間帯別の人口を、約125m四方で集計しています。
一定の範囲で集計して、期間ごとに比較してみると、報道で示されているような数値的な変化はもちろん、地図上に変化の様子を示すこともできます。ビジネス街と歓楽街と住宅街の人流が地理的にどう変わっていったのかなど、地理的な関連性も推測できます。この分析は本当に奥が深いな、って思っていて、凝りはじめると沼が待っている感じで恐ろしいです。
人流データで何が分かるのか?
さて、この人流データはどんな場面で重宝されているのでしょうか。
通常、私たちが会社に働きに行ったり、仕事の帰り道に友人と飲みに出かけたり、休日に温泉に出かけるなどの経済活動を行っているその瞬間の、それぞれの経済規模ってどう推測すればいいのでしょうかね?
人流データを使えば、その一端を少しだけのぞくことができるかも。
飲食チェーンが<売上予測>に利用している
飲食店だったら、店の前を通り過ぎる人の数に一定の割合をかけて来店客数を見積もるという方法があります。来店客数に客単価をかければ、売上を推測することができます。ということで、店の前を通過する人の数を数えている通行量調査に遭遇することがありますよね。ところが、その遭遇機会は減ってきていると感じたことはありませんか。
人流データの利用が進みつつあることも、その原因の一つに挙げられるでしょう。
人流データを使えば、お店の周辺に滞在している人口を推計で求めることができます。朝の通勤時間帯、ランチ時、夕方以降のディナータイムなど、時間帯ごとにお客さん候補の人数を知ることができます。
手間がかかる通行量調査が減ってきているのも無理はありませんね。
複数の店舗網で事業を展開していれば、既存店舗の売り上げと人流データから求めた推計人口を含んだ経営指標との相関性を求めることで、新しく計画中の店舗の売上予測に活用しているレストランチェーンもあります。
飲食店や物販店舗が<実勢商圏の把握>に利用している
来店客がどこからやってきたのかを調べる来店客調査によって、実際の商圏を明らかにするということも行われてきました。マクドナルドをはじめとしたファーストフードやショッピングセンターで調査員に聞かれた経験をお持ちの方もいるんじゃないでしょうか。
実勢商圏って、意外とちゃんと理解できていないことが多いみたいです。広い道路や橋が架かっていない川、坂道が急な道路などの地理的なバリアがあったり、競合店にお客さんを奪われてたりして商圏が狭くなったり、逆に幹線道路が充実するなどアクセスがよい場所であれば、商圏は広がります。
実勢商圏を踏まえずに、新聞折込やポスティングをしてしまうと、結構な無駄遣いになる可能性もあるわけですよね。
そこで、実際に来店したお客さんから聞き取りで来店客調査をしたり、会員制のポイントカードを発行して住所を登録してもらったりして実勢商圏を理解する試みが、歴史的に行われてきました。まあ、結構コストがかかってしまいます。
一部の人流データでは、調べたい店舗などの特定の場所に滞在している人口が、どこから来ているのか、どこに住んでいるのか、あるいは場合によってはどこで働いているのか、お店に来る前や後にどっかに立ち寄っているんだろ受うか、といった情報を知ることができます。これを使えば、実勢商圏の傾向を手軽に理解することができるわけです。
競合の実勢商圏もわかる!
人流データを使った実勢商圏の把握では、もう一つ大きなメリットがあります。これまで、自社の店舗については来店客調査を行えば、コストはかかるものの実勢商圏は把握することができました。しかし、競合店舗については自分で来店客調査はできませんので、実勢商圏は想像で知るしかありませんでした。
ところが、人流データを使えば、競合の実勢商圏も、自社とまったく同じように知ることができます。「己を知り、敵を知る」という素晴らしい情報源となるものだったんです。
都市部のビジネスでは国勢調査は使えない
都市部に立地するカフェやコンビニなどの店舗では、勤務地での買物や外回りのビジネスマンの利用が圧倒的です。このような立地の場所では、自宅位置で回答する国勢調査はビジネスの分析では使い物になりません。
人流データは、この課題を解決するのに役立ちます。必要な時間帯における店舗周辺の人口が分かれば、ビジネスの分母となる数値を知ることができるのですから。
防災やイベントの警備などの分野でも活用
平日昼間に大地震などの大規模災害が都市内で発生した場合、いったいどの程度の人々が被災者になるのでしょうか。実際に測定する手段がない現状では、人出の推計はあいまいなものにならざるを得ません。携帯端末の位置情報を活用した人流データを活用すれば、地域内のピーク時の人口が推計できます。この数字こそが、備蓄すべき食料や水はどの程度あればよいのか、どの程度の備えをしておくのかという判断を下す基準となります。
花火大会のようなイベントで、どの程度の来場者が見込まれるのかを知りたい場合もあります。これまでは、過去の人出の数字をもとに、今年の人出を体感的に比べて概算の数字を出すことが多かったようです。しかし、人流データを使えば、それよりは正確な数値を出すことができます。
過去のイベントでは、景気のよい数字を出しておいた方がイベント自体の価値が高まるって見立てもあって、水増しされた数字が発表されがちだったとも言われています。しかし、ここ最近では大勢の人が集まるイベントでは、テロ対策も必要になり、それなりの警備員の配置も必要とされるようになってきました。あまりに水増しした数字では、警備にかかるコストも増えてしまいます。そこで実勢値に近い人出が計れる人流データの出番になったというわけです。
ちゃんと見ていないですが、主催者発表の数字と人流データから測定した数字を比較したら、結構興味深い数字が出てくるのかなーって思っています。
いずれにしても、人の数を知るということで、そこで展開する事業の規模をある程度は想定できるようになります。この観点からも人流データはが必要とされていることが理解いただけると思います。
時間帯別の人口の増減パターンで、街の構造を理解する
時間帯別のピーク時の人口を知るばかりではなく、その場所の人口変化のパターンを知ることによって、その街の特性を理解することができるんです。
たとえば、平日の昼間に人口が増える場所であれば働く人が中心の「ビジネス街」と定義することができますよね。
人口のピークが休日の昼間になる場所であれば、デパートや専門店へのお買い物だったり、観光地での集客なのかな、と想像できそうです。夕方から夜にかけて人口がピークになれば、飲食店やバーなどの夜の娯楽を楽しむ場所なのかもしれませんね。
毎日生活している身近な場所なら、ビジネス街なのか商業施設が集中する繁華街なのか、住宅地なのかは肌感覚で分かりますね。でも、馴染みのない街では、盛り場や住宅街などの都市構造は分からないですよね。人流データから時間帯別の人口変化をもとにした地域区分を行えば、都市構造が一目瞭然になります。都市構造が分かれば、都市内の人の流れを想像することは難しくありません。エリアマーケティングを行うためには、これは大きな武器になります。
「あさひる統計」では、この地域ごとのパターンを「地域区分コード」として提供しています。興味のある方はチェックしてみてください。
街の変化をチェックする
人流データは、場所と時間に関連する情報です。特定の場所を地図化して、時系列的に比較していくと、変わっていく街の様子を理解することができます。
更新頻度の早い人流データを利用できれば、近所で行われたイベントや、バーゲンセールなどの販促活動と集客の関係を理解することができます。自分の店舗や競合の店舗が新たに開店した前と後では、どの程度人の流れが変わったかを調べることもできそうです。
また、さきほど紹介した「地域区分コード」をもっと長期的に比較していくと、都市構造そのものの変化も追うことができます。人流データの活用は、2~3年前に始まったばかりですので、まだ長いスパンでの都市構造は比較できません。しかし、これからデータが蓄積した10年、20年後には、成長する都市、衰退する街の時系列的な変化を追えるようになるはずです。
人流データの限界
こうしてみると、これまでとは比べものにならないほど優れているように見える人流データですね。でも、少しばかり限界もあるんです。軽く解説していきましょう。
保護の対象となるプライバシー情報
国勢調査などの公的な統計データであれば、単に人数だけではなく、年齢や職業、家族構成、住居などの多様な関連する属性も公開されています。なので、特定の地域に住む住民の持ち家の割合とか、農業従事者の数とかも集計できたりします。
一方、人流データは、スマートフォンなどの携帯端末の位置情報のうち、提供の承諾が取れているもののみを集約して、加工したデータです。そのため、個人が特定されないような工夫を経た上で利用されています。携帯電話の契約者やアプリの登録時に登録した年齢を利用できる場合もありますが、基本的にはそれ以上の属性は持たないのが普通です。
なので、「平日午後に東京駅の周辺にいる人のうち、持ち家の人はどのくらいいるのか?」という疑問には答えられません。
ちなみに「あさひる統計」では、人口以外の属性は持っていません。
データ量が膨大で生データの扱いが困難
膨大な台数の端末の位置情報を時間ごとに取得していて、移動状況も保存しようとすると、そのデータベースは膨大なものになります。データベースの構造も複雑なものとせざるを得ず、単体のデータ製品として個別の地理情報システムに組み込んで分析作業を行うのは、システム開発が必要だったりして、少々難易度が高くなります。
ちなみに「あさひる統計」は、時間帯別の人口「だけ」しか取り扱っていないので、デスクトップ型の地理情報システムにも読み込むことは容易で、比較的取り扱いしやすくなっております。
2種類の「どこから、どこへ」の取扱い
一般に人流データは、携帯端末のIDを保持したまま管理しています。IDを保持した状態であれば、「どこから、どこへ」を追うことができます。ただし、プライバシーの観点で取扱が難しいこと、データ構造が複雑になるので、取扱が難しくなることといった課題が出てきます。
一方、IDを切り離し、エリアごとに人口を集計した状態で提供する人流データもあります。これはプライバシーの問題が薄くなり、構造が単純化されるため取扱が容易となります。ただし、「どこから、どこへ」が追いづらいという欠点が出てきます。
ちなみに「あさひる統計」はIDなしの取扱容易な製品となります。
気をつけたい!データ精度
取得した位置情報の精度についても注意が必要です。
まだスマートフォンが本格的に普及する前は、携帯電話と基地局間の通信状況から端末の位置を割り出していました。この方式だと位置情報の精度が低くなり、場所の特定があいまいになりがちです。一部の携帯電話の通信会社が提供する人流データは、この方式となっているので注意が必要です。
一方、最近ではスマホにインストールしたアプリから位置情報を取得する方式が一般的になってきました。携帯端末に内蔵されたGPS情報を基に位置を定めますので、精度は高まります。
ちなみに「あさひる統計」はスマホアプリからGPSの位置情報を取得している製品となります。
あさひる統計で見るコロナ前後の人出マップ
では実際に「あさひる統計」を使って、各地のコロナ前後の人出の変化を地図に示してみましょう。
2021年1-3月と昨年の同時期との平日午後の人出を比較したマップです。
コロナ騒ぎは2020年2月頃から表面化し、3月末には外出自粛が本格化。4月上旬には緊急事態宣言が発出されました。したがって、若干の影響はありますが、2020年1-3月の人出はほぼコロナ前の指標として取り扱えます。
2021年1月早々には、第3波の到来による2度目の緊急事態宣言が発せられ、人の流れは再び制限された状況でした。
では、マップを見てみましょう。
大手町や丸の内、霞ヶ関や赤坂などのビジネス街や新宿・渋谷などの繁華街の昼間の人口は大幅に減少していることが分かります。特に大手町、日本橋、汐留、丸の内、溜池・赤坂など比較的新しい高層ビルが多い地域で人口の減少が著しい印象です。新宿西口も高層ビル地区ですが、最も高い減少は示していません。IT系などのテレワーク化が比較的容易な事業所が入居するオフィスビルは、大規模な新築物件に入居する割合が高く、昼間の人口減少が著しいという可能性も考えられます。
逆に人口が増えているのは、住宅が比較的多い場所だと考えられます。テレワークの進展によって、昼間でも自宅に滞在して仕事を行うようになったことが原因でしょう。比較的都心に近い場所に人口が著しく増えているスポットが見られます。おそらく、タワーマンションが立地していると思われます。
また、ビジネス街にも増加スポットがみつかります。おそらくこの1年で新しいオフィスビルが竣工して、入居が始まったのではないでしょうか。
コロナ前は海外からの観光客も非常に多く見られた奈良公園周辺の人出とその分布状況をマップ化してみました。赤枠で囲った部分を集計して、各時期の人口を比較しました。
最初の緊急事態宣言下では、人出はコロナ前の約4分の1まで減っています。(というか、もっと減っている印象でしたけど。)
2020年秋のGoToキャンペーンを展開していた時期には約2/3まで復活しました。(残りの1/3は外国からのインバウンドだったかな?)
そして、再びの緊急事態宣言となった2021年1-3月期、奈良公園の人出はコロナ前の半分弱まで減少。この時期、奈良県庁あたりに人口集中があるのが分かります。お役所はテレワークがやりにくいって話を聞いたことありますが、できれば率先してテレワークを推進してほしいと思います。
このマップでは、コロナ前後における「夜の街」のエリア変化を示しています。
もちろん、コロナ前後で飲食店の場所が変わったわけではなく、夜間の人の流れが変化した結果、本来ネオン街であるはずの場所が、ビジネス街っぽい人の流れになったということを示しています。仕事を終えてから立ち寄っていた一杯飲み屋や銀座の高級クラブなどでは、本来賑わう時間帯に誰も人がいなくなり、ビジネス街みたいな場所になってしまったということを示しています。
夜の街とともに、最初の緊急事態宣言下ではデパートなども営業自粛になったため、繁華街も消滅していたことがわかります。
このように、環境変化にともなって人の流れが変わり、それに応じて都市構造も変化したことが地図上で確認することができます。
最初の緊急事態宣言が出た2020年4月~6月の月ごとの夜の人出の比較を行ってみました。コロナ前は歌舞伎町を中心とした新宿東口エリアに21時を回っても多くの人口が滞留していたことが分かります。
4月に緊急事態が宣言されると、特に夜間の人出は激減しました。人がいるのは駅構内くらいだった4月を底に、5月、6月と盛り場の夜の人口は少しずつ回復していった様子が分かります。
「あさひる統計」が無料!
あなたの街を「47maps」で見てみましょう
ここまで人流データについて解説してきました。いかがでしたか?
ここで紹介した「あさひる統計」は、地理情報システム専用のデータです。商圏分析などを業務で行っているプロの方が使うQGIS、MapInfoといった専用のアプリケーションが通常は必要となります。
オンラインの地図サイト「47maps」では、手軽に「あさひる統計」を見ることができるよう、無料でデータを公開しています。時系列的な比較もグラフで見られて分かりやすいです。
あなたの住む街の人の動き、そしてその変化を、自分で作るマップ上でご覧になってください。地元再発見がいろいろとあるんじゃないかなって思います。
「47maps」上での「あさひる統計」の閲覧には登録が必要です。
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