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不要不急の代表格! 観光地の人出はどう変わった?
9月上旬に行った「あさひる統計」のアップデートでは、2020年4月~6月のスマホの位置情報を集計しています。したがって、4月7日付けで発令された緊急事態宣言を受けた外出自粛の影響を色濃く反映したものとなっています。
緊急事態宣言下の外出自粛が、日本各地の人の動きにどんな影響を及ぼしたのか。あさひる統計v2020Q2(4-6月版)で振り返ってみようと思います。
緊急事態宣言下では、不要不急の外出自粛が要請されました。テレワーク等の実施によって、平日を中心に都心のオフィスへの通勤や「夜の街」、休日の繁華街への人出が減少しました。では、不要不急の代表といってもいい観光に関係する人の動きはどう変化したのでしょうか。
遊園地や公園は不要不急なのか?
休日午後の人の動きとして、買物以外の人の動きを見てみましょう。
緊急事態宣言中も、公園での散策は健康維持のために必要な行為とされていました。実際はどうだったのでしょうか。
#6の銀座の繁華街の人の移動を示したマップの中に日比谷公園が位置していました。改めて確認してみると、おおむね半分以下の人出となっています。公園そのものは密ではないので、健康維持のための余暇時間を活用するにはよい場所だったかと思われます。が、ここまでの移動には電車などの公共交通機関に頼らざるを得ないために敬遠されたのでしょうか。
では、徒歩で移動可能と思われる近郊住宅の様子も見てみましょう。
府中周辺の人口変化の様子を示したマップです。競馬場や競艇場の人出が減少しているのが目立ちます。これらの場所は観客が入場できなかったこともあるので、当然の結果だと思われます。
その一方で、立ち入りは可能だった府中の森公園、郷土の森、大國魂神社の境内の森などのエリアでも軒並み人口が減っています。住宅街と目される地域は人口が増えていることからも、ステイホームがきっちりと実践されていたということが証明されそうです。
マップを見るまでもなく結果は想像できるものではありますが、緊急事態宣言下では営業を停止していた遊園地の周辺のマップもついでに示しておきます。
浦安市の東京ディズニーランドと桑名市のナガシマスパーランドの周辺です。
当然のように、前年比では大幅な人口減少が起こっています。周辺の民家や住宅となっている場所との人口増減の対比が興味深いです。特にナガシマスパーランドのマップでは、高速道路上の人口も減少していることが観察できます。この時期、人出の減少に応じて、自動車の交通量も減少していたことが分かります。
観光地の人出はどうなったのか?
ここまでの議論を通して、コロナ禍における人の動きは平日よりも休日の方が顕著に影響が出ているということが明らかになっています。当然、日常の生活から飛び出して余暇を楽しむという観光旅行は著しい影響があったはずです。
全国な主要観光地のマップを通じて、その傾向を見ていきましょう。
軽井沢駅と隣接するショッピングモール、旧軽井沢に至る市街地に全般で、コロナ前の半分程度の人出にとどまっていることが分かります。市街地の所々に人口が増加している場所は、商店などの施設はない場所に限られていて、住宅やリゾートマンションが立地する場所です。都市部在住の別荘保有者が一時的に都会からコロナ避難的な動きがあったのかもしれません。
所々に増加域が見られますが、増加幅は小さく誤差の範囲のような印象です。彫刻の森美術館や小涌園ユネッサンなどの集客力のある施設付近での人口の落ち込みが激しく、この時期の観光施設は壊滅的な打撃に見舞われていたことが分かります。
京都は政令市でもあり、観光地のカテゴリーで語るのは違和感も覚えます。しかし、コロナ前の休日昼間のラッシュアワーのような人出を考えると、テレビのニュースで見た人通りの途絶えたような京都の映像は衝撃的でした。
清水寺、円山公園、知恩院などの観光エリアの休日午後の人出はコロナ前の1/5程度まで減少している場所も珍しくありません。これと同時に、河原町や京都駅などの繁華街も30%程度の人出の減少がありました。
滋賀県彦根市の琵琶湖に隣接する彦根城の人出はどうだったのでしょうか。彦根城の人出は半分以下の水準まで減少した模様です。同時に、彦根駅や城に隣接する城下のお散歩ルートなど観光客の動線となっている場所で大幅に人出が減っていることが分かります。これ以外の観光的な要素が及ばない住宅地などでは、在住者がステイホームした影響で人口は増加傾向にありました。
ピーク時を除いて、密とは縁遠いと思われる山登りやハイキングでは、人出はどう変化しいていたのでしょうか。新宿から1時間程度で麓まで行ける手軽な登山(どちらかといえば、ハイキングかな)ができる高尾山の様子を見てみましょう。
登山道、リフト、ケーブルカーなど、山域のすべてで人口は減少しています。個人的には登山は密ではない環境で体動かせて、コロナ禍ではよい休日の過ごし方なんじゃないかとも思ったのですが、それでも人が集中したら大変な密になったわけで、こうしたことが回避できたというのは政策的なメッセージが浸透したことの裏返しだと思われます。
通勤や買物に比べて、不要不急の度合いが高まる観光による外出の減少は激しいものがあり、これに関わる産業には極めて厳しい影響があったものと推察されます。緊急事態宣言の解消後に、「ちょっと早いのでは」と思われるタイミングでGo To Travel政策を開始したことは、他の産業よりも観光業界が深刻な影響を受けているという側面があったからかもしれないですね。
住宅街は平日も休日も昼間人口は増えている
住宅街はこれまで折に触れて述べてきたように、ステイホームの効果が高く、平日も休日も昼間の人口を引き上げた様子が観察できました。
どちらかというと、平日に比べて、自分の意思で外出の可否が決められる休日の方が外出自粛の効果は高く出ていました。
典型的な住宅地である多摩ニュータウンの、休日午後コロナ前後の人口の比較マップです。人口が減少しているのは駅周辺の店舗や事務所が立地している場所、学校、公園や寺社、ハイキングコースなどに限られており、住宅地ではほぼ人口の増加が見られます。
平日はテレワーク、休日はステイホームが相当高いレベルで実践されたという状況が、このマップから伝わってきます。
人口移動から見た街の構造が一時的に変化した
最後まとめます。
- ビジネス街は、平日休日とも人口を減らした
- 駅ターミナルなどの繁華街は、ビジネス街以上に人口を減らした
- 夜の街も人を減らしたが、ビジネス街に隣接する場所の方が減少が激しかった
- 観光地は、都会の繁華街以上に人口を減らした
- 住宅地は平日休日ともに人口を増やした
- 人口増減の影響は平日より休日の方が大きかった
今回の緊急事態宣言の外出自粛の呼びかけにより、このような影響が一時的に日本全体で発生したわけです。日本社会の中で、ここ数十年なかったような大規模かつ長期間の人の流れの変化でした。可能であれば、このような人の流れと新型コロナ発症率の地理的な相関を比較できたらと考えるわけです。しかし、発症者の地理的な情報が十分ではなく、分析は難しい状況です。
地理の力を生かすには、もう一段のデータの公開が望まれるところです。
了
あさひる統計の詳細は、ホームページをご覧ください。
また、日本統計センターが公開しているウェブマッピングサイトである「47maps」では、あさひる統計をオンラインで閲覧することができます。身近な地域の人口の変化を、皆さん自身で確認することができます。
2020年12月末現在の最新公開情報は、2020年7-9期のデータです。緊急事態宣言開けの人の動きをマップ上で見ることができます。
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