「新型コロナウイルス感染マップを作成してみてわかったこと(上)」はこちらから。

4月8日の緊急事態宣言から週末をまたぎました。爆発的ではないものの、依然として拡大のペースは衰えていません。

データ入手の都合で東京都分のマップしか作成できていませんでしたが、私の住む東京に隣接する川崎市の状況はどうなんだろうか気になってしまい、週末に川崎市の記者発表資料から集計してマップを作成しました。

単独でマップ化するより、隣接する東京都との関係も見たかったので、マップを統合して表現しています。

東京都および川崎市の新型コロナウイルスの市区町村ごとの人口10万人あたりの感染状況マップ
(東京都は4/10、川崎市は4/12現在)

この2~3日で都心の感染率は高くなってきています。
すなわち、港区から新宿区に高感染のエリアが拡大するとともに、品川区や目黒区、中野区、杉並区など、その周辺の地域も高い感染率を示すようになってきています。

川崎市の各区は、軒並み上から3番目の階層の濃い色のゾーン(6.4~15.4人)に含まれています。特に武蔵小杉がある中原区は全区の中でトップの感染率となっています。

新型コロナウイルスの拡大防止には、「密閉」「密集」「密接」の3つの「密」を避けることが求められています。人が密集して経済活動を行う都心部の感染が先行しているのはそれなりの理由がありそうです。

また、追跡できない感染は夜の盛り場での人の交流が原因ではないかという説もあります。

このあたりの現象をマップを通じて確認してみようと思います。

まず、比較対象となる指標のマップとして、人口もしくは人口密度を考えてみます。
感染者数そのものよりも、感染率を示す人口10万人あたりの感染者の方が感染の実態を示しているように、人口よりも人口密度の方が「密」な状態を適切に示しているものと考えます。

まずは、基本中の基本である国勢調査の人口をマップ化してみます。

人口(2015年国勢調査)
常住地(すなわち自宅の場所)の人口を示しています。

世田谷区、練馬区、江戸川区などの東京23区の辺縁部の人口が多いことが分かります。都心部の千代田区や中央区は都心過ぎて、あまり人が住んではいないことが分かります。

この指標を人口密度でマップ化するとこうなります。

人口密度(2015年国勢調査)
23区辺縁部の人口の多い自治体はそれなりに面積も広く、密度にするとそれほどドーナツ化が激しいというわけでもない。

コロナマップの感染者は都心に高い傾向が出ているので、これらの夜間人口ベースの分布とはパターンが異なっているようです。

それでは、自粛のお触れが出ている夜の繁華街や都心の昼間の混雑度が一番増す時間帯における人口分布との関係性を調べてみたいと思います。

実は、昼間や夕方、夜などの人口を調べる統計調査は公的には行われていません。異なる統計調査で集めた勤務地や通学地の情報をもとにした昼間人口の指標は発表されていますが、ここではお買い物や外回りの営業活動などの要素は排除されてしまい、完全には実態を反映しないものとなっています。

そこで、最近では最新のテクノロジーによって集められた位置情報ビッグデータから特定の場所の特定の時間ごとの人口を推計しており、これがマーケティングや都市計画などの分野での活用され始めています。
弊社でも「あさひる統計」として、時間帯別の人口を推計した統計データを制作しています。

あさひる統計から作成した平日昼(12-15時)の人口密度マップ
都心(特に山手線から内側)に人口が集積し、鉄道に沿って郊外に向かう路線上に核となる人口集積地があることが分かります。

本来は125m四方の細かい単位での分析を行うために、上のような表現で推計人口のマップを扱っています。コロナマップとの比較を行うために、この機会に市区町村ごとに集計してマップ化してみました。

平日昼間(12-15時)の推計人口密度(あさひる統計から作成)
働いていたり、主婦の皆さまがお買い物されている時間帯の人口分布を示しています。
平日夜(18-21時)の推計人口密度(あさひる統計から作成)
職場で残業しているか、家に帰って夕食してるか、歓楽街で飲み歩いている時間帯の人口分布を示しています。

昼間のオフィス街の人口密度は相当なものですね。
居酒屋タイムの人口は、オフィス街から自宅に戻る途中の新宿や渋谷、上野などで、食事やお買い物でちょっと立ち寄っている人が含まれています。

少し脱線しますが、あさひる統計ではオフィスビルのある区画の125m四方の推計人口が2万人近くになっている場所もあります。これは1平方kmに何と128万人もの人が滞在しているという数字です。一人あたりのスペースがわずか90cm四方っていう計算です。高層ビルの収容人数って恐ろしいですね。

本題に戻りましょう。
平日昼間の「密」はやはり都心で発生しています。
千代田区(118,983人)、中央区(95,768人)、港区(69,001人)がトップ3の密度の高さです。(※数字は12-15時の推計値)
一方でコロナ感染者密度(10万人あたりの感染者数:4/10現在)は港区(69.7人)、新宿区(40.7人)、渋谷区(31.3人)がトップ3です。

(再掲)10万人あたりのコロナウイルス感染者数
4/10(東京都)、4/12(川崎市)

改めてマップの分布パターンを、昼間人口の分布パターンと見比べてみます。
港区と新宿区を頂点に、同心円状に感染率が下がっている印象です。昼間人口のパターンとは少し違うようです。どちらかというと、居酒屋タイムの人口分布の方が近いような気がします。新宿や渋谷、池袋などの帰り道に一杯飲んで会食!っていうのは、コロナ拡大の要因になっているかも!というのは、このマップから裏付けることができそうです。

で、こんな分析を行っている方がいらっしゃいます。

繁華街での接触により感染し、その感染が自宅の周りの地域でも2次的に拡大する、というモデルです。
そもそも、港区といえば外資系の会社も多く、外国人も多数居住しており、海外との往来は激しそうです。海外で感染爆発が起こった3月中旬までに感染して帰国した人たちが、六本木や新橋といった歓楽街で感染拡大を招き、さらに歓楽街全体がクラスター的な場所になってしまった、というのがここまでの感染拡大のモデルではないかと推測されます。

そして、その次の段階として、その港区からアクセス性がよく、通勤通学者が多い地域に伝播していくというのが現在の段階かと思われます。
というわけで、港区への通勤通学者の状況をマップで見てみましょう。

▼港区への通勤・通学者比率 (%)のマップ(2015年国勢調査):47maps
https://bit.ly/3a6CBF2

港区および隣接する区が軒並み通勤率高くなっているのは当然です。
この中で東京都区外の川崎市中原区が7位、高津区が12位に入っているのが目立ちます。それぞれ、中原区には武蔵小杉、高津区には武蔵溝ノ口という拠点がある場所です。中原区は感染者率も高くなっているので、今後も注意が必要かもしれません。

さきほどの「47maps」では、各区への通勤者のマップが自分で作成できます。操作はそんなに複雑ではないと思いますので、気になる方は試してみてください。
先ほど出てきた「あさひる統計」もこちらのサイトで見ることができます。全国の時間帯ごとの人口の状況を見ることができます。(宣伝すいません!)

ということで、コロナウイルスの拡大は歓楽街を起点に、アクセス性がよい通勤経路に沿って拡大していくという仮説を唱えてみました。
夜の楽しみが厳しくなるのは残念だけど、ここを抑えて拡大が下火になれば、その他のアクティビティが少しはできるようになるのかも♪と期待してしまいます。

皆さまもご安全に、この時期を乗り越えましょう!

追記
繁華街での感染が増えているのは、感染が見つかったところだけ検査を強化しているからだ、という指摘をいただきました。確かに。
繁華街での感染はあくまで一つの要素に過ぎません。
原則に立ち返って、その他の感染拡大要素にも注意すべきかと思います。最近気になっているのは、住宅街のスーパーの買い出しですかね。